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ロスター解体が生んだ実弾、スティーブンスが仕込んだ財政設計の構造

2025-26シーズンのセルティックス解体は単なるコスト削減ではなく、新CBAの第2エプロン制限から抜け出し、2770万ドルのTPEをサイン&トレードで発動させるための意図的な環境構築だった。エバン・フォーニエ放出以来積み上げてきたブラッド・スティーブンスの財政操作の論理を、CBAルールの具体的な作用と合わせて読み解く。

5月22日|Celtics Signal JP|読了目安:約 10
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強いチームが「しゃがむ」とき、それが戦略的な体勢の作り直しなのか、それとも単なる後退なのかは、外側からは見分けがつきにくい。2025-26シーズンのセルティックスがたどった軌跡を、プレーオフの敗退という結果だけで判断するなら、話の半分しか見えていないことになる。

ブラッド・スティーブンスが主導した一連のロスター解体の本質は、総年俸を削って経費を抑えることではなかった。アル・ホーフォード、クリスタプス・ポルジンギス、そしてアンファニー・サイモンズを順次放出し、「NBA史上最高額」と予測された5億4000万ドル規模のロスターを意図的に解体した真の目的は、2023年改定の労使協定(CBA)が課す第2エプロンの制限を完全に脱却すること、そしてその過程で生み出した2770万ドルのTPE(トレード・プレイヤー・エクセプション)を実際に行使できる状態に変換することにあった。

「使えない武器」を「実弾」に変える理屈

TPEとは何か、から整理しておく必要がある。NBAのトレードには原則として「サラリーマッチ」の規定があり、双方が放出するサラリーを一定範囲内で一致させなければならない。TPEとはその例外として機能するもので、チームがトレードで放出したサラリーの方が獲得サラリーを上回った場合に、その差額分を「将来の補強で吸収できる権利」として受け取れる仕組みだ。発生から1年間有効で、複数回に分けて使うことも可能。TPEを持っているチームは、その枠内に収まるサラリーの選手であれば、自チームから選手を一切出さずにドラフト指名権等だけで獲得できる。

ところが新CBAはこの武器に致命的な制限を加えた。サラリーキャップの上に設けられた「第2エプロン」を超過しているチームは、過去に取得したTPEを一切使用できない。2025-26シーズンの数字で言えば、サラリーキャップが約1億5464万ドル、第2エプロンは約2億782万ドルだ。5億4000万ドルのロスターを抱えたままでは、どれほど巨大なTPEを持っていても、ルール上それは「存在しない武器」に等しかった。

スティーブンスがロスターを解体して総年俸を保証ベースで約1億8000万ドル水準まで引き下げた意味は、まさにここにある。第1エプロン(約1億9594万ドル)を大きく下回る水準まで年俸総額を落としたことで、TPEは「使えない紙切れ」から「実際に行使できる実弾」へと性質を変えた。

加えてこの解体には、もう一つの財政的効果がある。セルティックスは数年にわたってラグジュアリータックス(贅沢税)のラインを超過し続けており、その間「リピータータックス」と呼ばれる累進的な割増課税が適用されていた。2シーズン連続でタックスラインを下回ることで、このリピータータックスのカウンターが完全にリセットされる。将来的に再び高額ロスターを編成しても、初回扱いの税率から始められるという計算だ。

エバン・フォーニエから現在まで、TPE活用の系譜

スティーブンスが2021年6月にバスケットボール運営部門社長に就任して以来、TPEは彼の編成哲学の中心的な道具として一貫して機能してきた。

その原点が2021年夏のエバン・フォーニエ放出だ。ニューヨーク・ニックスへのサイン&トレード(S&T)において、スティーブンスはエバン・フォーニエを手放すにあたって単に見返りを受け取るだけでなく、1710万ドルという大規模なTPEを同時に生み出した。その後も、ジョシュ・リチャードソン、デニス・シュルーダー、フアンチョ・エルナンゴメスらのトレードで500万〜700万ドル規模の中規模TPEを複数生成し、それらをパズルのように活用してロスターを微調整し続けた。

この蓄積の上に、現在のセルティックスが保有する3本のTPEがある。最大のものがサイモンズ放出で生まれた約2770万ドルで、2027年2月が失効期限。次いでジョージ・ニアン放出由来の約820万ドル(2026年8月上旬失効)、ドリュー・ホリデー放出由来の約470万ドル(2026年7月7日失効)という構成だ。小さい2本の失効期限が今夏に迫っていることは、このオフシーズンの動きを急かす時間的な圧力になる。

スティーブンスの編成哲学として読み取れるのは、「常に複数のTPEを時間差で保有し、市場に予期せぬ機会が生じたときに即座に動けるオプション(選択肢)を維持する」という構えだ。それは単発の補強策ではなく、盤面そのものを自分に有利な形にしておく構造的な設計と言える。

S&Tスキームが他球団に突きつける非対称性

2770万ドルのTPEが本当に恐ろしいのは、FA市場での「サイン&トレード」を通じて他球団より高い契約を合法的に提示できるという非対称性だ。

サラリーキャップを超過した強豪チームがFA市場で提示できる最大額は、ノンタックスペイヤー・ミッドレベルエクセプション(MLE、約1500万ドル)に限られる。これが通常の上限だ。しかしセルティックスはTPEを持っているため、標的のFA選手が元所属チームと再契約を結んだ直後にTPEを使ってセルティックスへトレードさせるという手順を踏めば、2000万〜2770万ドル規模の契約でその選手を獲得できる。MLEしか出せない競合他球団を価格で上回る手段を、ルールの範囲内で持っているということだ。

S&Tで選手を獲得した場合、そのシーズンは第1エプロン(約2億900万ドル)がハードキャップとして設定される制約はある。しかし現時点でセルティックスの保証年俸が第1エプロンを大幅に下回っているため、この制約は実質的に障壁として機能しない。これが解体によって意図的に作り出されたバッファーの意味だ。

さらに重要なのが「MLEの温存」という副次的効果だ。TPEでS&Tを成立させた場合、MLEは手つかずのまま残る。スティーブンス自身が会見で指摘した「リム周辺でのインパクト不足」を補うために、たとえばミッチェル・ロビンソンのような選手(市場価値約1500万ドル)をMLEで直接FA契約し、同時に2770万ドルのTPEでウィングやスコアラーをS&Tで追加するという二段構えが、理論上は同一オフシーズン中に成立する。サム・ハウザー(約1100万ドル)をトレードの調整弁として使うシナリオも報道ベースで浮上しているが、いずれにせよ主軸を崩さずに複数のロスター強化を同時進行できる余地が確保されている点が、この財政設計の肝だ。

5月6日の会見が示した意図の所在

日本時間2026年5月6日、スティーブンスはシーズン終了会見で「私たちが解決すべきことの一つは、リム周辺でいかにインパクトをもたらすかということだ。そのためにはチームに補強を加える必要がある」と明言した。ジョエル・エンビードに崩されたインサイドの欠陥と、76ersに対して3勝1敗からの逆転敗退という結果を正直に受け止めた上での言葉だ。ウェスタン・カンファレンスの上位3シードに対してレギュラーシーズンで3勝11敗という成績も踏まえれば、ロスターの構造的な問題は明らかだった。

この会見の言葉と、それ以前から進行していた財政の再構築を並べると、意図の所在が見えやすくなる。解体は結果として起きたのではなく、補強の手段を作り出すために先行して設計されていた。2770万ドルのTPEという道具は、シーズン末の敗退後に手に入れたものではなく、2026年2月のトレードデッドラインで意図的に創出されたものだ。

スティーブンスのオフィスには「何が望みか、何が真実か、そしてそこにどうやって到達するのか」という言葉が飾られているという。チャンピオンシップへの再挑戦が望みであり、インサイドの脆弱性がリムを突かれた敗退という真実だとすれば、そこへの経路として設計されたのが、複雑なCBAルールの隙間を縫う財政設計だという読み方が成り立つ。

盤面を読む視点

TPEの行使先として特定の選手名を並べることよりも、セルティックスの現状を評価する上で本質的に重要なのは、スティーブンスが「どの選手を取るか」ではなく「どのルールを自分に有利な形で適用できるか」という盤面設計を先に行っている点だ。

第1エプロン下への年俸圧縮、TPEの行使可能状態への変換、リピータータックスのリセット、そしてMLEの温存。これら四つの財政的条件が同時に揃うタイミングは、2026年夏という特定の窓にしかない。この窓が開いている間に、スティーブンスが机上の財政哲学をどのようにロスターへ具体的に変換するかが、テイタムのプライムタイムという今後数年を左右する判断になる。

今夏の最初のシグナルは、失効期限が近い820万ドルと470万ドルの小さなTPE群の動向と、2770万ドルの大枠が単独行使されるかパッケージ型のS&Tに組み込まれるかという形で現れる。MLEとTPEの組み合わせが実際に二段構えで発動するとすれば、リム補強の名指しされた課題に対するスティーブンスの答えが、選手名の発表ではなく構造的な補強の設計として見えてくるはずだ。