マージンを削り取る適応力——2勝1敗のセルティックスが問いかけるもの
フィラデルフィア・76ersとのイースタン・カンファレンス1回戦で2勝1敗と主導権を握るセルティックス。圧勝・敗戦・接戦と全く異なる3試合を通じて見えてきたのは、大幅なロスター刷新とジェイソン・テイタムの負傷明けという逆風のなかで、ジョー・マズーラ哲学が培った「プロセスへの信頼」と試合ごとの適応力こそがチームの本質であるという事実だ。
4月20日(JST)の第1戦から4月25日(JST)の第3戦まで、ボストン・セルティックスはわずか1週間で三つの全く異なる試合を経験した。32点差の圧勝、14点差の敗戦、そして敵地での8点差の接戦勝利。この振れ幅の大きさこそ、現在のチームの複雑さを正直に映し出している。シリーズ戦績は2勝1敗と優位に立つが、「無敵のセルティックス」という幻影は第2戦で早々に打ち砕かれた。今週の問いは単純ではない——このチームはいかにして勝つのか、そしてその勝ち方は持続するのか。
三つの顔を持つ一週間
第1戦(4月20日、TD Garden)は123-91と圧倒的だった。ジェイソン・テイタムが25得点11リバウンド、ジェイレン・ブラウンが26得点を記録し、チームで16本の3ポイントを沈めた。第1クォーターだけで33-18と突き放し、前半終了時点で64-46というリードは1982年以来のボストン相手プレーオフ最大ビハインドを76ersに刻んだ。虫垂炎の術後欠場が続くジョエル・エンビードを欠く相手に、マズーラHCは12人の選手をコートに送り出す余裕すら見せた。
しかし4月22日(JST)の第2戦で、そのイメージは一変する。76ersはチームで19本の3ポイントを成功させ(39本試投、成功率47.8%)、セルティックスは13/47(成功率27.6%)と極端な不振に陥った。加えて13のターンオーバーから16失点を献上し、111-97での完敗。3ポイントシュートの確率的な振れ幅がいかに試合の帰趨を左右するか、現代NBAの本質的な怖さを体感する敗戦だった。
4月25日(JST)の第3戦が、今週いちばん重要な試合だ。敵地フィラデルフィアで108-100。テイタムとブラウンがともに25得点、ペイトン・プリチャードが15得点を加え、チームの3ポイント成功率を20/47まで戻した。第2戦の自滅を反省しつつ、第1戦の「圧倒」に頼ることもなく、接戦のクロージングを制した。試合運びに派手さはないが、この勝ち方こそが現在のセルティックスの実像に最も近い。
フロントコートという構造的な傷
このシリーズで最も深く議論を呼んでいるのが、センターポジションの現状だ。2025年オフシーズンにかけてセルティックスのフロントコートは完全に入れ替わった。クリスタプス・ポルジンギスはアトランタ・ホークスへの3チーム間トレードで放出され、長年チームの精神的支柱を担ったアル・ホーフォードはゴールデンステイト・ウォリアーズへ去った——そのウォリアーズはプレーイン・トーナメントで敗退し、アル・ホーフォードのセルティックス退団後の不運は続いている。さらに、頼れるバックアップだったルーク・コーネットもサンアントニオ・スパーズと4年4100万ドルの契約で移籍。コーネットが現在スパーズのプレーオフでビクター・ウェンバンヤマの欠場を埋める活躍(14得点・10リバウンド・2ブロック)を見せていることが、セルティックスファンに複雑な感慨をもたらしているのは想像に難くない。
これらの穴を埋めるべく、フロントオフィスはバックコートのドリュー・ホリデーをポートランド・トレイルブレイザーズへ放出してアンファニー・サイモンズを獲得し、そのサイモンズを2026年2月のトレードデッドラインでシカゴ・ブルズへ送り出してニコラ・ヴーチェビッチを手に入れた。現在のインサイドはニーミアス・クエタ、ニコラ・ヴーチェビッチ、ルカ・ガルザという全く新しい顔ぶれで構成されている。
プレーオフという極限の舞台で、この新しいトリオの綻びが表面化した。第3戦でマズーラHCは先発センターのニーミアス・クエタを後半のスタートからベンチに下げた。無謀なファウルの繰り返しとポジショニングのミスを「驚くほど規律を欠いた」と判断してのことだ。代わりに送り込まれたのが35歳のヴーチェビッチだったが、彼もまた2月の移籍後に右薬指の骨折で14試合を欠場したばかりのベテランであり、守備——とりわけピック&ロールへの対応——では76ersに繰り返し狙われる弱点を抱えている。
それでもマズーラHCがヴーチェビッチを重用するのは、彼がコートに立つだけで相手守備に「警戒させる引力」が生まれるからだ。アウトサイドシュートの精度とパス能力によって、76ersのディフェンスはヴーチェビッチを捨て置くことができない。その結果としてペイントエリアに隙が生まれ、テイタムやブラウンのドライブコースが開く。マズーラHCは「先発の座から全く異なるシステムでベンチから出場するという移行がいかに難しいか、人々は過小評価している。彼が細部を重んじ、勝つために献身している姿勢は素晴らしい」と語る。守備の脆さを認めながら、それ以上のオフェンス面の価値を天秤にかけた起用判断だ。
テイタムの「リハビリ中のプレーオフ」とブラウンの牽引
現在のセルティックスをさらに特殊な状況に置いているのが、ジェイソン・テイタムのコンディションだ。2025年5月に右アキレス腱を断裂し手術を受けたテイタムは、今季わずか17試合の出場にとどまっている。つまり、プレーオフという最もフィジカルな舞台でありながら、実質的にはまだリハビリの最終段階にある。第1戦の勝利後に本人が「自分はまだリハビリ中だ。オフの日以外は毎日取り組んでいる」と率直に語った言葉は、その現実をそのまま伝えている。
スタッツを追うと、テイタムは第1戦に25得点11リバウンド7アシスト、第2戦に19得点14リバウンド9アシスト(ほぼトリプルダブル)、第3戦に25得点と、爆発的な得点に頼るのではなくリバウンドやゲームメイクでの貢献が際立っている。アキレス腱明けという制約のなかで無理なアイソレーションに固執せず、局面を読みながらファシリテーターとしての役割を全うする姿は、現在のチームの「適応する意志」を体現しているともいえる。
マズーラHCはテイタムの復帰について、「彼は努力を通じて自信を築き上げた。素晴らしいチームメイトやトレーナー、家族に囲まれ、自分の現在地と目標を正確に理解していた。彼がチームから距離を置かず、常に我々と共にあったことが重要だ」と語る。身体的な回復だけでなく、精神的な自信の再構築として深く理解しているコメントだ。
その穴をスコアリング面で最も力強く埋めているのがジェイレン・ブラウンである。第2戦の敗戦でも36得点を挙げ、第1・第3戦でもそれぞれ26得点・25得点と、オフェンスの軸として重責を担い続けている。「自分たちは一年中、よりハードにプレーするチームだった。プレーオフが始まったからといって、それを変えることはできない」というブラウンの言葉は、宣言というより確認に近い響きを持つ。
ホワイトへの「絶対的信頼」という教義
今週のシリーズで最も鮮烈なコーチングの場面は、スタッツには表れにくいところで起きた。デリック・ホワイトの扱いだ。
客観的な数字だけ見れば、ホワイトのシリーズ序盤は深刻だ。第3戦の実質的なシュート効率(TS%)は36.4%、フィールドゴール成功率は27.3%にとどまり、3ポイント成功率も直近の試合を通じて26%台で推移している。タイリース・マクシーへのマッチアップで苦戦し、レイアップを外す場面もあった。通常であれば出場時間を絞る判断が自然だろう。
しかしマズーラHCは微塵も揺らがず、第3戦後に「D-Whiteを疑うような奴は、勝つことについて本当に理解していない(Anybody that ever doubts D-White, they don't really care about winning)」とメディアに言い放った。この発言が単なる精神論でないことは、第3戦の第4クォーターに起きたプレーが証明している。ヴーチェビッチが左コーナーから3ポイントを外した瞬間、ベースライン沿いを滑り込んでオフェンシブリバウンドをタップアウトし、ポゼッションを継続させたのはホワイトだった。シュート確率という表面的な数字には決して映らない、ポゼッションを守るための細部への意識。ホワイト自身も「自分が出ている時は、チームが勝つためにあらゆることをしなければならない」と語り、フラストレーションを抱えながらも守備とリバウンドへの献身を止めない。
この信頼関係の背景には、マズーラHCのチーム哲学がある。今季の最優秀コーチ賞(Coach of the Year)のファイナリストに選出されながら、「私は今年1本もシュートを決めていないし、ブロックもしていない。選手たちが全てをやっているのだから、この賞は馬鹿げている」と一蹴するほどに「選手主体」を徹底するマズーラHCのもとでは、スランプ中の選手も数字以外の部分で貢献し続けることができる。シュートは確率的な揺らぎがある。だがリバウンドへの意識や守備のローテーションといった細部は、意志があれば裏切らない——その教義がチーム全体に浸透しているからこそ、ホワイトのような選手がスランプのなかでも質を落とさずにプレーできる。
エッジコムという奇襲と、その封じ方
対戦相手の76ersもまた、このシリーズを一筋縄でいかないものにしている。ジョエル・エンビードを欠くなかでニック・ナースHCが選んだのは、3ポイント重視と若手の勢いに賭けるアグレッシブなスタイルだ。その象徴が、ルーキーのV.J. エッジコムである。
第2戦で30得点・10リバウンドを記録したエッジコムは、プレーオフの試合で30得点・10リバウンド以上を達成したルーキーとして1998年5月のティム・ダンカン以来の快挙を成し遂げた。さらに、プレーオフ史上新人初となる「5本以上の3ポイント(実際は6本成功)と10リバウンド」という記録も打ち立てている。背中を強打してロッカールームに下がりながらも復帰し、第4クォーターにはペイトン・プリチャード越しにディープスリーを沈めてカメラにウインクを送った姿は、Celtics陣営に危機感を与えるには十分だった。ブラウンが試合後に「彼はルーキーだがプレーできる。もっと厳しくマークしなければならない」と警戒を示したことで、第3戦における最優先の修正課題が定まった。
セルティックスが第3戦で示した答えは、シューターへのクローズアウト強度を極限まで高めることだった。エッジコムは10得点・10リバウンドのダブルダブルこそ記録したものの、3ポイントは7本すべて失敗(0/7)。試合終盤にはテイタムがエッジコムのショットにプレッシャーをかけ、ブラウンがドライブからエッジコムの3つ目のファウルを引き出してフリースローを獲得するなど、ルーキー特有の経験不足を突く老獪な対応が随所に光った。一週間で奇襲を適応で封じた、このシリーズにおける最も具体的な「問いと答えの応酬」だった。
76ers側では、ジョエル・エンビードの代役を務めるアデム・ボナが第3戦前半だけで3つのファウル(複数がムービングスクリーン)を犯して自滅し、ベテランのアンドレ・ドラモンドが穴を埋める苦しい展開となった。このインサイドの薄さは、第4戦以降にセルティックスが繰り返し突くべき弱点として残っている。
第4戦へ向けた三つの焦点
4月27日(JST)に予定される第4戦を前に、シリーズの流れは明確にセルティックスへ傾いている。だが今週明らかになった課題は、次戦でも解消されるわけではない。
まず、ジョエル・エンビードの動向だ。76ersの第4戦のインジュリーリポートでジョエル・エンビードは「Doubtful(欠場濃厚)」とされているが、すでにコートでの個人ワークアウトを再開している。ニック・ナースHCも「シュートアラウンドの終わりにはより詳しい状況がわかるだろう」と含みを持たせた。万が一の強行出場が実現した場合、あるいは現状通りボナ・ドラモンドのファウルトラブルを突き続ける場合、マズーラHCがニーミアス・クエタ、ヴーチェビッチ、ルカ・ガルザの起用時間をどう配分するかが最大の戦術的焦点となる。
次に、3ポイントの確率的な揺らぎとペイント攻撃のバランスだ。第2戦の敗因は極端な確率の振れ幅にある。第3戦でその修正を見せたが、シュートが外れた時間帯にフリースローやオフェンシブリバウンドでいかに加点するかという泥臭い遂行力が、シリーズを通じて問われ続ける。
そして、テイタムとブラウンの二本柱が機能し続けることで生まれる「的の分散」だ。第3戦でともに25得点を挙げながら周囲の選手を活かした攻撃は、76ersのディフェンスが的を絞れない状況を作り出した。ペイトン・プリチャードを含めた周囲を巻き込む攻撃が機能し続けることが、インサイドの駒不足というチームの構造的な傷を補う最善の方法でもある。
2026年のセルティックスは、かつての「無敵艦隊」とは別の生き物だ。インサイドの薄さを抱え、大エースが負傷明けの実質リハビリ期間をプレーオフの舞台で過ごしている。それでも彼らが2勝1敗で週を終えられたのは、そうした逆風のなかで試合ごとの「わずかなマージン」を削り取る適応力——それ自体をチームのアイデンティティとして育ててきたからだ。第4戦で彼らがどんな「答え」を出すか。その中身こそが、このシリーズの本質を映す鏡になる。