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Game Insight

3-1から崩れ落ちたセルティックス——第7戦が照らし出した四つの亀裂

3勝1敗から3連敗を喫し、イースタン・カンファレンス・ファーストラウンドでフィラデルフィア・76ersに敗退したボストン・セルティックス。ジェイソン・テイタムの欠場という不運だけでは語れない、采配のパニック・スリーポイント依存の限界・ロスター解体のツケ・リーダーシップの空白という四つの構造的問題が第7戦で同時に露呈した。

5月3日|読了目安:約 11
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プランBが存在しなかった夜

2026年5月3日(JST)、TDガーデンで行われたイースタン・カンファレンス・ファーストラウンド第7戦。第2シードのボストン・セルティックスはフィラデルフィア・76ersに100-109で敗れ、シーズンに幕を下ろした。シリーズを3勝1敗で制することはNBAの歴史において32勝1敗の圧倒的な勝率を誇る状況であり、セルティックスもその例外ではないはずだった。しかし結果として、76ersは1勝3敗からの逆転を完成させた。これはNBA史上14例目の快挙であり、76ersのフランチャイズ(シラキュース・ナショナルズ時代を含む)にとっては球団初の達成でもある。

この敗戦をジェイソン・テイタムの欠場という一点に帰結させるのは、あまりにも表層的だ。確かに、エースの不在が致命的だったことは間違いない。昨季のプレーオフで右アキレス腱を断裂し今季終盤に復帰したばかりのテイタムは、今シリーズ平均23.3得点・10.7リバウンド・6.8アシストを記録していた「絶対的な重力」であり、その喪失はディフェンスを収縮させ味方にオープンショットを生み出す役割ごと消えることを意味した。試合当日のティップオフ約90分前、ジョー・マズーラHCは「テイタムが膝に不快感を抱えて来た。メディカルチームと私が決断した」と欠場を発表した。前日まで「彼はプレーするだろう」と楽観視していた指揮官にとっても、想定外の展開だったはずだ。

しかし問題は、その緊急事態に対してチームが持つべき「プランB」がついに機能しなかったことにある。第7戦、そしてシリーズ第5戦から始まった瓦解の過程を丁寧にたどると、四つの構造的な亀裂が浮かび上がってくる。

先発3人が合計無得点という記録

この試合最大の論点は、マズーラHCがテイタムの代役として切り出した「先発ラインナップ」の選択にある。指揮官はジェイレン・ブラウンとデリック・ホワイトの2枚看板に加え、ベイラー・シャイアマン、ロン・ハーパーJr.、ルカ・ガルザという3名をスターターに送り込んだ。この3選手のキャリア通算プレーオフ先発経験は合計0回。第7戦という極限のプレッシャーゲームで、シーズンを通じて一度も一緒にプレーしたことのないユニットをコートに立たせるのは、戦術的な奇手というよりパニックの可視化に近い。

シャイアマン、ハーパーJr.、ルカ・ガルザの3人は22分・4分・9分とそれぞれ短い出場にとどまり、合計シュートは0/7、合計プラスマイナスは-31。この急造ユニットはネットレーティング-70という壊滅的な数値を叩き出し、76ersに立ち上がりから9-0のランを許した。第1クォーターの時点で最大15点差を背負う直接的な原因となったのは、まぎれもなくこの選択だった。

試合後、マズーラHCは「戦術的にテストしたいことがあった。ロスターの強みを生かしたかった」と弁明したが、メディアやアナリストからは「完全に考えすぎている」「Game 7で一度も一緒にプレーしたことのないラインナップを先発させるのは正気ではない」と批判が殺到した。レギュラーシーズン終盤のオーランド・マジック戦(事実上の消化試合)でシャイアマンが30得点、ルカ・ガルザが27得点、ハーパーJr.が27得点とキャリアハイをそろって記録していたことは確かだが、あの夜と第7戦ではプレッシャーの次元が根本的に異なる。

皮肉なことに、一時は92-91の1点差まで詰め寄る大逆転劇の気配を見せたのは、ブラウン(40分・33得点・9リバウンド)とホワイト(26得点・スリーポイント5本成功)というコアメンバーが起点になってからだった。

スリーポイント49本、成功13本

もう一つの深層にあるのが、チームのオフェンス哲学に染み付いた「スリーポイント依存」とその硬直性だ。第7戦でセルティックスが放ったスリーポイントは49本。成功はわずか13本(成功率26.5%)にとどまった。第5〜7戦の3試合を合計すると36/129(成功率27.9%)という極度のスランプだったにもかかわらず、アウトサイドへの依存を修正する動きは見られなかった。

試合後にマズーラHCは「作り出したシュートチャンスは気に入っている。プロセスは良かった。ただ結果だけが最悪だった」と語り、外角依存への批判をはねのけた。現代NBAの文脈では、期待値の高いオープンショットを選び続けることはデータ的に正義とされる。しかし、テイタムという最大の引力を失い、プレーオフ特有のフィジカルな肉弾戦が激化する中で、レギュラーシーズンと同じ確率前提を維持し続けることは、構造的に脆い。

第4クォーター序盤に16-4の猛反撃で92-91と追い上げたセルティックスだったが、逆転のチャンスを前にしたその後のポゼッションでもスリーポイントを打ち続け(第4Q: 2/11)、自ら流れを手放した。残り1分15秒、タイリース・マクシーにレイアップを決められた後、続く4回のポゼッションで立て続けにシュートを外して試合が決した。ファン層から「chuck and pray(乱発して祈るだけ)」という手厳しい言葉が飛んだのは、的外れではない。ペイント内へのアタック、ミッドレンジでのゲームコントロール、ファウルをもらいフリースローで繋ぐ泥臭い選択——そうした「プランB」のオフェンスへ切り替えを指示できなかったことが、崩壊の構造的な一因だった。

放出されたビッグマンたちの亡霊

第7戦、ジョエル・エンビードは34得点・12リバウンド・6アシストを記録した。虫垂炎の手術から第4戦で復帰して以来インサイドを完全に制圧し続けてきた彼は、この日「Game 7でのロード戦は2勝10敗」という自身とフランチャイズのジンクスを打ち破り、76ersをイースタン・カンファレンス・セミファイナルへ導いた。タイリース・マクシーも45分フル稼働で30得点・11リバウンド・7アシスト。ジョエル・エンビードとマクシーはNBA史上3組目となる「第7戦での25/10/5デュオ達成」という記録を作った。

ジェイレン・ブラウンは試合後、ジョエル・エンビードについて「彼は我々に多大なプレッシャーをかけてきた。我々は本当に答えを持っていなかった」と率直に認めた。その「答えのなさ」は偶然ではなく、昨オフシーズンの編成判断と直結している。セルティックスは2024-25から2025-26シーズンにかけて、クリスタプス・ポルジンギス(アトランタへトレード)、ドリュー・ホリデー(ポートランドへトレード)、アル・ホーフォード(FAで移籍)、ルーク・コーネット(スパーズへ移籍)と、守備の多様性を担ってきたベテランたちを次々と手放した。

クリスタプス・ポルジンギスがいれば、ジョエル・エンビードをペリメーターへ引き出し体力を削ることができた。アル・ホーフォードがいれば、長年の経験に裏打ちされたポジショニングでポストの自由を奪えた。ドリュー・ホリデーがいれば、30得点を挙げたマクシーへの正面からの守備をより強固にできた。代わりにニーミアス・クエタが第7戦で17得点・12リバウンドと健闘したことは確かだが、彼は伝統的なリムランナーとしての力はあっても、クリスタプス・ポルジンギスの戦術的な引力やアル・ホーフォードの守備の老獪さとは本質的に異なる。セカンドエプロン回避というキャップ上の理由は理解できる。しかしその代償として失われた「守備の多様性と戦術的な引き出し」のツケが、最も重要な場面で回ってきた。

ベテランの不在と、V.J.エッジコムの躍動

戦術と編成の問題に加え、両チームのロッカールームに生じた「精神的な格差」も見逃せない。

1勝3敗と崖っぷちに立たされた76ersでは、マクシーが「同じことを繰り返してはならない」とチームメイトに呼びかけ、結束を固めた。ジョエル・エンビードもテイタム欠場のニュースを聞いた後、「同じエネルギー、同じインテンシティを保つよう要求した」と明かしている。その姿勢がルーキーのV.J.エッジコムにまで波及した。レギュラーシーズン平均16.0得点・5.6リバウンドのこの新人は、第7戦という巨大なプレッシャーの舞台で23得点を叩き出し、球団のルーキーとして第7戦最多得点記録を塗り替えた。果敢なドライブとスペースメイクでベテランたちを助けながら自らも輝いた彼の姿は、チーム全体が「勝利への執念」で統一されていた証明だった。

対照的に、セルティックスのコート上からは劣勢を跳ね返す「生きたコミュニケーション」が感じられなかった。アル・ホーフォードやドリュー・ホリデーといった精神的な拠り所となっていたベテランたちが去った今、感情をコントロールし流れを引き戻す存在が欠落していた。第5戦で第4クォーターに11-28と圧倒されて逆転負けを喫した際も、第6戦でスターターを早々に下げた際も、チームはあくまで「確率的に正しいはずのシュートを淡々と打ち続ける」という無機質な対応に終始した。マズーラHCの采配パニックによってチームに動揺が走ったとき、その波紋を食い止める防波堤はボストンのどこにも存在しなかった。

「3年前(2023年)も彼らを倒すチャンスがあったが実現できなかった。今回は乗り込んで成し遂げた」——試合後のマクシーの言葉は、76ersが長年の精神的なハードルを越えたことを象徴している。

シグナルと向き合うために

2021-22シーズン以来となる最も早いプレーオフ敗退。この結末をテイタムの怪我という一つの偶発的な不運に還元することは、チームが抱える問題から目を背けることに等しい。采配の硬直と緊急事態でのパニック、スリーポイント依存とオフェンス哲学の脆さ、ロスター解体がもたらした守備の穴、そしてベテランリーダーの不在——これら四つの亀裂は、テイタムが完全に戻ってきたとしても、手をつけなければそのままそこにある。2026年のオフシーズンに何を問い直し、どこへ手を入れるか。今のセルティックスにとって、それが問われている。