第5戦、ホームで沈む――ジョエル・エンビードのプレイメイキングに崩れた守備と、11得点の代償
3勝1敗で王手をかけたセルティックスは4月29日(JST)、TDガーデンで76ersに97-113と逆転負けを喫した。第4クォーターの11得点は球団プレーオフ史上最少。単なるシュート不調ではなく、ジョエル・エンビードのプレイメイカー化へのローテーション欠陥が守備を崩壊させ、テイタムの受動性という連鎖を招いた構造的な敗北だった。
11得点という数字
3勝1敗とシリーズ制覇に王手をかけ、ホームのTDガーデンで完結させる算段だったセルティックスは、4月29日(JST)、フィラデルフィア・76ersに97-113で敗れた。第3クォーター終了時点では86-85とわずかにリードしていたにもかかわらず、最後の12分間で完全に沈んだ。
第4クォーターのスコアは11-28。この「11得点」は、セルティックスのプレーオフ球団史上ワーストの数字だ。フィールドゴール成功率は13.6%(3/22)まで落ち込み、第4戦で球団プレーオフ新記録となる24本の3ポイントを沈めたチームの面影はない。この日の3ポイント成功率も28.2%(11/39)に終わっている。
ただ、この崩壊を「シュートが入らなかった」と片付けると、試合の深層を見誤る。起きたことはより構造的な問題であり、76ersによる意図的なアジャストメントの帰結でもあった。
ジョエル・エンビードのプレイメイカー化という罠
第4戦で32点差の大敗(96-128)を喫したニック・ナースは、第5戦に向けて「戦術的なことよりエネルギーとタフネス、リバウンドが重要」と語っていた。しかしコート上では、極めて洗練された修正が施されていた。
虫垂炎の緊急手術(4月9日)からわずか19日で第4戦に復帰したジョエル・エンビードは、第5戦の序盤もアウトサイドシュートのタッチに苦しんだ。第1クォーターはわずか2得点、3ポイントシュートは最終的に5本すべてを外している。しかし彼は自らの不調を察知すると、プレースタイルをリングに近いポストアップへとシフトし、ダブルチームを引きつけてはキックアウトパスを供給するオフェンスの軸として機能し始めた。最終的に33得点に加え、ゲームハイの8アシストを記録している。
セルティックスは先発センターのニーミアス・クエタとニコラ・ブーチェビッチをジョエル・エンビード対応に充て、インサイドで押し込まれることを嫌ってダブルチームを仕掛けた。だが、これが76ersの罠だった。ジョエル・エンビードはダブルチームが来るたびに正確なキックアウトパスを裁き、コーナーで待つクエンティン・グライムズが何度もオープンな3ポイントを射抜いた。グライムズはベンチスタートから18得点を奪い、試合後にジョー・マズーラHCも「グライムズを何度かフリーにしてしまった」と守備のローテーションミスを認めている。
ジョエル・エンビードを起点としたインサイド・アウトの構図が、セルティックスのディフェンスを根底から崩した。
フロントコートが抱える構造的な問題
このジョエル・エンビード対策の失敗を理解するには、現在のセルティックスのフロントコート事情を踏まえる必要がある。
ブラッド・スティーブンス(バスケットボール運営部門社長)は2025年夏、セカンドエプロンと呼ばれる厳格なサラリーキャップ制限を回避するため、優勝メンバーのクリスタプス・ポルジンギスとジュルー・ホリデーをトレードで放出した。2026年2月のトレードデッドラインにはアンファニー・サイモンズとドラフト2巡目指名権をシカゴ・ブルズへ出し、ニコラ・ブーチェビッチを獲得している。スティーブンスはこうした手腕が評価され、自身2度目となるNBA最優秀エグゼクティブ賞を第5戦直前に受賞したばかりだった。
しかしプレーオフの極限状態で、この編成の弱点が露呈した。機動力とリムプロテクトを持ち味とするニーミアス・クエタは26分の出場で8得点14リバウンドと奮闘したものの、第3クォーターの重要な時間帯に4つ目のファウルを犯してベンチへ退いた。この不在の間に76ersは15-3のランを記録して主導権を取り返している。
一方、オフェンス面での貢献を期待して獲得したニコラ・ブーチェビッチは15分の出場で8得点8アシストを記録したが、コート上での得失点差は-10。機動力に欠ける彼がジョエル・エンビードと対峙するたびに、セルティックスはより深い位置からのヘルプを強いられ、ペリメーター守備が手薄になった。センター陣がジョエル・エンビードに翻弄され続けた構図は、一夜の出来不出来ではなく、ロスターの構造そのものに起因していた。
テイタムの沈黙と負の連鎖
守備の崩壊は失点を増やすだけでなく、セルティックスのオフェンスの生命線を断ち切るという二次的な被害をもたらした。これが第4クォーター11得点の本質的な理由である。
セルティックスの強みは、堅守でストップし、ディフェンスリバウンドから素早くトランジションへ移行して、相手の陣形が整う前にアドバンテージを取る展開にある。しかしジョエル・エンビードにインサイドを支配され、高確率で得点やフリースローを重ねられたことで、セルティックスは毎回ボールをエンドラインからリスタートする遅いハーフコートオフェンスを延々と強いられた。
その負荷が最もクリアに現れたのが、ジェイソン・テイタムの第4クォーターだ。アキレス腱断裂から復帰し、今季わずか16試合の出場でプレーオフに臨んでいるテイタムは、試合全体では24得点16リバウンドを記録したものの、勝負所の第4クォーターでは無得点、シュート試投数はわずか2本にとどまった。
試合後、テイタムは「まずストップをかけること。それがセットディフェンスを相手にせず、トランジションでアドバンテージを見つける助けになる」と語り、守備の崩壊がオフェンスの停滞を招いた因果関係を自ら認めている。さらに「良いと感じたシュートがいくつか決まらず、思い通りに得点できないとディフェンスにプレッシャーがかかる」と、悪循環に陥っていた心理も吐露した。
現地メディアやアナリストはこの姿勢を「slow and scared」と厳しく批判している。手術明けでスタミナに不安を抱え、第3クォーター終盤には膝を打つアクシデントもあったジョエル・エンビードに対して、セルティックスはトランジションで走らせて消耗させるか、ピック&ロールなど複数のアクションでディフェンスに負荷をかけ続けるべきだった。だがテイタムらはボールムーブメントとペイントへのアタックを放棄し、アイソレーションからタフな3ポイントに逃げ続けた。第4クォーターのFG成功率13.6%という数字は、その帰結にほかならない。
76ersの勢いと、チーム内の認識のズレ
セルティックスの停滞とは対照的に、76ersのサポーティングキャストは見事に連動した。タイリース・マクシーは25得点10リバウンド、ポール・ジョージは16得点9リバウンドで安定した貢献を見せている。そして見逃せないのが、2025年ドラフト全体3位指名のルーキー、VJ・エッジコムの存在だ。
バハマ出身のエッジコムは第2戦で30得点10リバウンドというティム・ダンカン以来のルーキー記録を打ち立て、今やシリーズのキーマンとなっている。第5戦でも第4クォーター残り2分25秒、マクシーのアシストを受けて26フィートの3ポイントを沈め、セルティックスの息の根を止めた。ジョエル・エンビードの円熟したプレイメイキングと、エッジコムという若い才能の爆発力が噛み合った第4クォーターで76ersは28得点を奪い、試合を決定づけた。
一方、試合後のセルティックス側には興味深い認識のズレが見えた。第4戦でベンチから32得点を挙げたペイトン・プリチャードは「自分たちは試合を舐めてかかってしまった(we just mess around with the game)」と自嘲気味に認め、ジェイレン・ブラウンも「ジョエル・エンビードに簡単なバスケットを許しすぎた。もっと働かせなければならない」とディフェンスの強度不足を指摘した。
しかしジョー・マズーラHCのトーンはより大局的だった。「大局観を持つことだ。すべてが悪かったわけではない。改善すべき点にフォーカスし、より一貫性を持つことだ」と語り、過剰反応を戒めている。セルティックスは2022年以降、ロードでのクローズアウトゲームで4勝1敗という実績を持ち、マズーラHCはその「earned trust(積み上げてきた信頼)」を強調した。ブラウンも「深呼吸してリラックスし、自分の仕事を実行するだけ。余計なプレッシャーをかける必要はない」と次戦への心構えを語っている。
ただ、この崩壊を「メンタリティとインテンシティの問題」として処理することには危険が伴う。第5戦で露わになったのは単なる気持ちの緩みではなく、ジョエル・エンビードのプレイメイキングへのローテーション欠陥と、トランジションを封じられた際のハーフコートオフェンスの引き出しの少なさという、構造的かつ戦術的な問題だからだ。マズーラHCの「積み上げてきた信頼」が本物であることを証明するには、精神論ではなく戦術的な修正がコート上で体現される必要がある。舞台はフィラデルフィアへ移る。