UP NEXTNEXT GAME TBD

Daily Signal

球団史上初の「3-1崩壊」が突きつけたもの——ジョー・マズーラ体制の限界と、新オーナー陣が迫られる決断

ボストン・セルティックスが76ersとのファーストラウンド第7戦に100-109で敗れ、球団史上初めて「3勝1敗リードからの逆転負け」を喫した。敗因の核にあるのはジョー・マズーラのスリーポイント偏重戦術と、プレーオフでのベンチ冷遇という構造的矛盾だ。新オーナー・ビル・チザム体制のもと、監督の進退と大型補強の両面でオフシーズンの大鉈は避けられない情勢となっている。

5月4日|読了目安:約 9
SHARE
球団史上初の「3-1崩壊」が突きつけたもの——ジョー・マズーラ体制の限界と、新オーナー陣が迫られる決断 のサムネイル画像

ボストン・セルティックスの2025-26シーズンは、最も皮肉な形で幕を閉じた。TDガーデンで行われたフィラデルフィア・76ersとのファーストラウンド第7戦(日本時間5月3日)、セルティックスは100-109で敗北を喫してシーズンを終えた。球団はこれまで「3勝1敗リードを持ちながらシリーズを落とす」という経験を一度もしたことがなく、その状況での通算戦績は32勝0敗という完璧な記録だった。1982年以来ポストシーズンでボストンに勝ったことがなかった76ersが、その伝説に終止符を打った。

今後のオフシーズンを読み解くうえで最も重要なシグナルは、「ジョー・マズーラのバスケットボール哲学と現有ロスターとの乖離が臨界点を超え、新オーナー体制のもとで抜本的な組織再編が不可避の局面に入った」という点にある。

スリーポイント偏重と、再現不可能な2024年スタイルへの固執

ジョー・マズーラ体制への批判の核心は、戦術的な硬直にある。ビル・シモンズはジョー・マズーラがこのシリーズを「完全にぶち壊した(screwed this series up)」と痛烈に批判した。データが示す事実も厳しい。シリーズを通じてセルティックスは76ersより93本も多い計323本のスリーポイントを試投し、第7戦の残り5分間にはペイント内のオープンな味方を無視しながらタフなスリーポイントを9本連続で放って、そのすべてを外している。

シモンズが指摘するように、ジョー・マズーラは「2024年の優勝スタイルへ回帰した」とみられているが、ロスターはすでに別物だ。クリスタプス・ポルジンギスやアル・ホーフォードのような、トップ・オブ・ザ・キー付近からの高精度シュートとエリートのスペーシングを兼ね備えたビッグマンはいない。そのロスターで機械的にスリーポイントの試投数を追い続けた戦術は、明らかに機能不全を起こしていた。

ベンチの扱いも深刻だった。レギュラーシーズンでローテーションを担っていたヒューゴ・ゴンザレス(74試合出場、平均14.6分・3.9得点、FG47.6%・3P36.2%)をはじめ、ジョーダン・ウォルシュやベイラー・シャイアマンといった若手は、シリーズの大部分で事実上ベンチに封印された。このファーストラウンドを「次戦に向けたリトマス試験紙」として扱い、ヤングプレーヤーの試運転を優先した結果、目の前の76ersに足元をすくわれたという見立てが、ボストンメディアの共通認識となりつつある。

第7戦の急造スターターと、ジョエル・エンビードに蹂躙されたインサイド

こうした戦術的な一貫性の欠如と裏腹に、第7戦直前のジョー・マズーラの判断はむしろパニック的だった。第6戦で足を傷めていたジェイソン・テイタムが「左膝のこわばり」を理由に試合開始約90分前に欠場を発表され、ジョー・マズーラはジェイレン・ブラウンとデリック・ホワイトの横に、ベイラー・シャイアマン・ルカ・ガルザ・ロン・ハーパーJr.の3人をスターターに並べた。今季一度も同じ顔ぶれで試合に臨んだことのない急造ラインナップは完全に機能せず、抜擢された3人は揃って無得点に終わった。

シリーズを通じてベンチを「放棄」してきた指揮官が、最大の一戦で突如彼らに救世主の役割を求めた矛盾は、ロスターマネジメントの破綻を端的に示している。試合後の会見でジョー・マズーラは「ゲームに違う雰囲気を与えたかった。14〜15人の選手が勝利に貢献できる」と語ったが、その言葉が重く響くのは、その「違う雰囲気」をなぜ早い段階で、前の試合で信頼しなかったのかという疑問が拭えないからだ。

インサイドの機能不全も致命的だった。虫垂炎手術明けのジョエル・エンビードは第7戦で34得点・12リバウンド・6アシストを記録し、シリーズを通じても平均26.0得点・8.0リバウンド・7.3アシストと圧倒。彼が出場した4試合で76ersは3勝を挙げた。トレードで獲得したニコラ・ブーチェビッチは攻守で存在感を示せず、ニーミアス・クエタが第6戦で11リバウンドを記録するなど意地を見せたものの、ジョエル・エンビードのフィジカルと技術に対抗するには力が及ばなかった。ジョー・マズーラは「ビッグマンを置くことがリバウンドやスクリーンの観点で最大のアドバンテージになる」という哲学を貫いたが、結果としてインサイドのミスマッチを最後まで突かれ続けた。

ブラウンの孤軍奮闘と、審判批判に滲む消耗

テイタムが万全でない状況を一身で背負い続けたジェイレン・ブラウンは、今季のレギュラーシーズンに平均28.7得点・6.9リバウンド・5.1アシストとすべてキャリアハイを記録し、第2シード獲得の最大の牽引役となっていた。第2戦では36得点・5本の3ポイントを叩き出す圧巻のパフォーマンスも見せた。

しかし敗退後、ブラウンはTwitchのライブ配信で審判への不満を爆発させた。「レギュラーシーズンに審判を批判したことで、彼らには明確なアジェンダ(標的)にされていた。ポール・ジョージやジェイレン・ブランソンに許されているプッシュオフが、自分にだけオフェンシブファウルとしてコールされる」と強く主張。実際、今季プレーオフのオフェンシブファウル数でブラウンはリーグトップに立っており、この発言には一定の数字的裏付けがある。

そのうえでブラウンは「このグループを誇りに思うが、自分たちが第2シードを獲得したプレースタイルをもっと信頼したかった」とも語った。ジョー・マズーラのシリーズを通じた戦術変更への不満を、慎重な言葉の中に滲ませた発言だ。「キャリアで一番好きなシーズンだった」と前向きな言葉も添えたブラウンの複雑な心境は、このチームが抱えるギャップをそのまま映している。

新オーナー体制と、不可避のオフシーズン再編

2025年8月にビル・チザム率いる新オーナーグループがセルティックスの経営権を掌握した。ワイク・グロースベックは共同オーナー兼CEOとして留任しているが、最終的な意思決定権(Governor)はチザムにあると明言されている。

敗退後の会見でジョー・マズーラは「私たちが優勝した2024年も、負けた時と同じくらい空虚に感じた。偉大さを追求するということは、失敗を受け入れるというコインの裏表がある」と語った。哲学的には筋の通った言葉だが、圧倒的有利な状況からシリーズを落とした直後に新オーナーへ差し出す答えとして、この回答が受け入れられる可能性は低い。ジョー・マズーラが球団史上初めて「3勝1敗リードを守れなかった指揮官」として記録されたいま、ホットシートに置かれているという観測はほぼ共通認識となっている。

これまでジョー・マズーラの戦術思想を支持してきたブラッド・スティーブンス編成本部長も、短期的な結果を求めるチザム体制の意向が強まれば、非情な決断を迫られる可能性がある。

フロントコートの脆弱性を補うための大型トレードについては、すでに複数のシミュレーションがメディアを賑わせている。バム・アデバヨ(ヒート)、オニエカ・オコング(ホークス)、ダニエル・ギャフォード(マーベリックス)、ハーブ・ジョーンズ(ペリカンズ)といった名前が候補として浮上しており、デリック・ホワイトやサム・ハウザー、ヒューゴ・ゴンザレスに複数の1巡目指名権をパッケージにした案が取り沙汰されている。ただしこれらはメディア上の試算であり、現時点で交渉が具体化しているという確認はない。

数週間以内に見込まれるブラッド・スティーブンスとビル・チザムのシーズン総括会見、ニコラ・ブーチェビッチとニーミアス・クエタのフリーエージェント交渉、そして何より마ズーラの処遇——これらがセルティックスの次の形を決める。「3勝1敗からの崩壊」が突きつけたのは、単なる一シーズンの失敗ではなく、2024年の優勝以来揺るぎないものとして機能してきた指揮官の哲学が、現在のロスターと組織の許容範囲を超えたという構造的な問いだ。