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ニックスとスパーズが示した針路、CelticsのTPEは何に使われるべきか

2026年NBAファイナルはニックスとスパーズという対極の編成モデルが激突する舞台となった。外部調達型のニックスと内部育成型のスパーズが共通して持つのは、ハーフコートで局面を打開できるイニシエーターの存在だ。約2770万ドルのTPEを持つCelticsが今夏この問いに向き合うとき、ファイナルの景色は教材として機能しうる。

6月1日|Celtics Signal JP|読了目安:約 10
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NBAファイナルが始まる前から、もうひとつの問いが静かに動き出している。ニューヨーク・ニックスとサンアントニオ・スパーズという両カンファレンスの勝者は、現行の厳格なCBA(労使協定)のもとで全く異なる編成アプローチを歩みながら、同じ舞台に辿り着いた。その対比は、ファイナルの行方と並行して、今夏の補強設計を進めるCelticsにとって鏡のように機能する。財政的なリセットを終え、約2770万ドルのTPE(トレード・プレイヤー・エクセプション)を手にした今、二つのモデルから何を読み取るかが問われている。

直近の記事では、5月の大規模ロスター再編で生まれたTPEの意味と、3-2-1ロッタリー制度が指名権の価値観を変えた構造的変化を追った。今回はその先、ファイナルという実例に照らしてCelticsが次に向かうべき方向の輪郭を確かめたい。

ニックスが実証した「外部調達」の完成形

レオン・ローズ球団社長が2020年に就任して以来、ニックスは段階的な再建を歩みながらも、ロスターの大部分を外部から調達することで現在の陣容を作り上げた。現在のプレーオフローテーションで生え抜きのドラフト指名選手はミッチェル・ロビンソン、マイルズ・マクブライド、パコム・ダディエの3人のみで、それ以外の主力はすべてトレードによる獲得だ。

この編成が機能した最大の理由のひとつは、エースのジェイレン・ブランソンが最大2億7000万ドルの契約延長が可能だったにもかかわらず、4年1億5650万ドルという1億1300万ドル安い条件を受け入れたことにある。このサラリー圧縮があったからこそ、ニックスはOG・アヌノビー、カール=アンソニー・タウンズ、そして4つの保護指定なし1巡目指名権を放出して獲得したミカル・ブリッジスという主力を第2エプロン超過なしに抱えられている。マイルズ・マクブライドの年平均1300万ドルをはじめ、ホセ・アルバラード(450万ドル)、ジョーダン・クラークソン(220万ドル)、ランドリー・シャメット(220万ドル)といったベンチ要員を低額で固めた構造も同様だ。

戦術的には、ブランソンという確固たる起点の周囲に、OG・アヌノビー、ブリッジス、ジョシュ・ハートという多機能なウィングを並べ、タウンズとのハイ・ロー・バランスで得点を積む設計になっている。指名権という「量」を圧倒的な強度の「質」へ変換した外部調達の到達点と言っていい。

スパーズが証明した「内部育成+ピンポイント補強」の破壊力

スパーズのアプローチはニックスとは対極にある。2023年にビクター・ウェンバンヤマ(全体1位)、2024年にステフォン・キャッスル(全体4位)、2025年にディラン・ハーパー(全体2位)と、3年連続でトップ5指名権を獲得し、フランチャイズのコアを自前で揃えた。

この「3年連続トップ5指名」という事象がNBA全体のルールを変えてしまったことは広く知られている通りで、2027年のドラフトから適用される3-2-1ロッタリー制度は、オーナー投票29対1(唯一の反対はメンフィス・グリズリーズ)で可決された。新制度では最下位3チームの全体1位獲得確率が5.4%に引き下げられ、意図的な低迷による恩恵を排除する設計が取られた。いわば「スパーズ・ルール」だ。

ただし、スパーズがファイナルへ到達した本当の理由は若手の蓄積だけではない。2025年2月のトレード期限でサクラメント・キングスから獲得したディアロン・フォックスの存在が決定的だった。ウェンバンヤマという圧倒的なインサイドの重力に対し、絶対的なスピードとハーフコートでの突破力を持つフォックスが加わることで、スパーズのオフェンスは一段階上のものになった。フォックスは移籍後17試合で平均19.7得点・6.8アシストを記録し、その後手術で離脱したものの、2025年8月には4年2億2900万ドル(プレイヤーオプションなし)のマックス契約でチームに残ることを選んだ。2026年のオールスターゲームではヤニス・アデトクンボの代替として選出されてもいる。

スパーズのモデルをひと言で表すなら、「ドラフトで世代を代表する才能を自前で揃え、チームの最大の弱点だったイニシエーターの不在を、リーグ最高水準のタレントをトレードで獲得することで一気に埋めた」となる。

Celticsはどちらのモデルでもないからこそ難しい

この二つの成功例と並べたとき、現在のCelticsの立ち位置は独特だ。ジェイソン・テイタム(2025-26シーズン年俸約5410万ドル)とジェイレン・ブラウン(約5310万ドル)、そしてデリック・ホワイト(2810万ドル)という主力を持つ点ではスパーズに近い。しかし過去1年間の動きは、ニックスのレオン・ローズが実践した冷徹な財政再編そのものだった。

クリスタプス・ポルジンギスを3チーム間トレードでアトランタ・ホークスへ放出してジョルジュ・ニアンと2巡目指名権を獲得し、ドリュー・ホリデーをポートランド・トレイルブレイザーズへトレードしてアンファニー・サイモンズを獲得。2026年2月にはサイモンズをシカゴ・ブルズへ送り、ニコラ・ブーチェビッチ(年俸2140万ドル)を受け取った。この一連の動きにより総年俸を大幅に圧縮し、第2エプロンから完全に脱却。推計では約4100万ドルのサラリーと約2億5000万ドルのタックスが削減されたとされる。

そして財政的再編の最大の副産物が、クリスタプス・ポルジンギスのTPEへサイモンズの契約を当てはめることで生まれた約2770万ドルのTPEだ。このTPEは2027年2月まで有効で、現在のCelticsが外部からタレントを迎える際の最大の手段となっている。

ゴンザレスという内部の答えと、残る外部の問い

興味深いのは、Celticsがウィングのデプス(層の厚さ)という課題をある程度内部で解決しつつあることだ。2025年ドラフト全体28位指名のヒューゴ・ゴンザレスは、ルーキーイヤーのレギュラーシーズンで74試合に出場し、平均14.6分・3.9得点・3.3リバウンドを記録した。1月のブルックリン・ネッツ戦でダブルオーバータイムに持ち込む同点スリーポイントを沈め、3月のミルウォーキー・バックス戦では18得点・16リバウンド・3スティール・2ブロックとラリー・バード以来のCelticsルーキー記録を打ち立てた。ブラッド・スティーブンス球団社長が「20歳でありながらチーム屈指の筋力を持つ」と評したゴンザレスの存在は、低コストで質の高いフィジカルをもたらしている。ジョーダン・ウォルシュらも含め、ウィング層の底上げは着実に進んでいる。

その分、約2770万ドルのTPEが担うべき役割の輪郭がより鮮明になる。ニックスのブランソン、スパーズのフォックス、両者が示したのはハーフコートでディフェンスを自ら崩せるイニシエーターの存在だ。テイタムとブラウンはリーグ最高峰のデュオではあるが、純粋なポイントガードが不在のなか二人にクリエイションのすべてを委ねる構造は、プレーオフの強度のなかで限界を見せた。ニコラ・ブーチェビッチは潤滑油やサイズとしての役割は持つが、ハーフコートで相手のディフェンスを単独で崩す能力という意味ではフォックスやブランソンとは別のカテゴリーの選手だ。

CelticsがTPEをウィングのデプス補充に使うのか、それとも起点を持てるバックコートのタレント獲得に投じるのかは、今夏の編成の核心を突く問いとなる。スパーズがウェンバンヤマというコアの弱点を補うためにフォックスを獲得したように、テイタム・ブラウンというコアの弱点を補うために何を追加するかが今夏の設計の根幹だ。

次に見るシグナル

まず確認したいのはニコラ・ブーチェビッチとの再契約交渉の行方だ。フロントが彼のサラリーを帳簿から切り離す判断をするなら、それはTPEをフル活用して新たなイニシエーターを獲得する覚悟の表れと読めるし、再契約を選ぶなら保守的なキャップ運営を選んだことになる。ニコラ・ブーチェビッチは3月に右薬指骨折を経験しており、来季の役割についてもフロントの評価が問われる局面だ。

あわせて、スティーブンス球団社長やジョー・マズーラHCがメディア対応で「ハーフコートでの起点作り」や「テイタムとブラウンのプレイメイク負担の軽減」についてどう語るかも、フロントがTPEのターゲットをポイントガードに絞っているのかボールを持てるウィングに設定しているのかを読む手がかりになる。ゴンザレスを筆頭とする若手陣のオフシーズンの成長も、ロスター全体の設計をどこまで内部調達で賄えるかという前提条件を左右する。約2770万ドルというTPEの有効期限は2027年2月。ニックスとスパーズのファイナルを観察しながら、Celticsがこの弾薬をどう使うかの答えが近づいている。